2007年9月10日号 保険毎日新聞
本紙連載で好評を博した「保険業とジェロントロジーの接点」の筆者、村田裕之氏によるユニークな団塊マーケット論。
いま、多くの職場で60歳でいったん定年退職した後も、再雇用され働き続ける人が増えている。だが、こうした人たちの多くは、給料が半減し、役職も外され、年下の上司や同僚との心理的葛藤を抱えながら、年金の満額支給開始など経済的に支障のない時期まで職場で過ごそうとしている。
筆者はこのような状態で本当の離職(リタイア)まで過ごす期間をリタイア・モラトリアムと呼んでいる。
本書の最大の特徴は、リタイア・モラトリアムという環境変化に団塊世代特有の脳と心の変化を重ね合わせて「解放型消費」という独自のライフスタイル市場論を展開している点にある。
村田氏は「シニアビジネス 多様性市場で成功する10の鉄則」(ダイヤモンド社)以来、団塊市場はミクロ市場の集合体であるとし、数が多いだけで市場になるというような安易な団塊マス・マーケット論とは一線を画してきた。
本書でも解放型ライフスタイルにはいくつかの段階があり、人によってその段階が異なるので、特有の工夫が必要だと述べている。
村田氏の論が単なる机上の空論に聞こえず説得力を特って迫ってくるのは、日本や米国の多くの事例に触れられているせいもあるが、何よりも氏が関西大学とのカレッジリンク型シニア住宅をはじめ、数多くの事業への実際の関与から得た現場の知恵を体得しているからにほかならない。
リタイア・モラトリアムを経て解放型ライフスタイルを身に付けた結果、もはやリタイア生活ではなくなる、という近未来予測は、これまでの高齢者像とは異なる消費性向をもつ団塊世代に対して納得感がある。
第三部で述べられているHOHOやナノコーポといった「半働半遊」のライフスタイルは、多くの団塊世代にとっては理想であろう。ただし、それを具体的にどうすれば実現できるのかについては詳しくは述べられていない。この点は続編に期待したい。
ちまたのありふれた団塊マーケット論に飽き飽きした保険業界の担当者にとって、同書は次の市場を読む手掛りを与えてくれる必読の書としてお勤めしたい。
(本文より抜粋)