販促会議2月号 連載 実例!シニアを捉えるプロモーション 最終回
「企業活動のシニアシフト」が遅れている業界の共通点とは
「人口動態のシニアシフト」に合わせて、近年ようやく取組みが増えてきた「企業活動のシニアシフト」。本連載では、企業がシニア市場で事業展開する場合の市場の捉え方の勘所と、シニアシフトの取り組みが遅れている業界ごとに新たな差別化のための視点を提供してきた。最終回となった今回は、本連載の総括と今後の展望を述べたい。
連載でも取り上げてきたが、「企業活動のシニアシフト」が遅れている業界には次の共通点が見られる。
- 大量生産・大量流通輸送・大量販売で成長してきた
- シニアを顧客として意識する必要性がなかった
- この結果、ハード志向が強く、ソフトで差別化する志向が弱い
- さらに、顧客対応に手間のかかる売り方が苦手
- そして、以上のような従来の業界慣習をなかなか変えられない
結局、高度成長期にマス・プロダクション、マス・マーケティングで成長してきた業界ほど、「企業活動のシニアシフト」が遅れていることがわかる。ということは、これらの業界が遅れを取り戻すには、次の通り上記とは逆を行く必要がある。
- 少量生産・少量流通輸送・少量販売での成長を目指す
- シニアを主要顧客として意識する
- ハードよりも、ソフトでの差別化を志向する
- 顧客対応に手間をかける労を惜しまない
- 従来の業界慣習にとらわれない
以下に、今後「企業活動のシニアシフト」で市場成長が見込まれる分野の例を取り上げる。
自動車学校
自動車学校は、長い間若者が対象だった。人口動態のシニアシフトで若者人口が減っているのに加え、近年は都市部での若者のクルマ離れが進み、受講生は減少の一途をたどっている。そこで新たな受講生としてのシニア層が浮かぶ。
実はこれまでいくつかの自動車学校がシニア層向けのコースを運営してきたが、若者にとって代わるほどの受講生を得られていない。中高年で初めて運転免許取得を目指す人を対象としているからだ。体力や視力の衰えた中高年期の運転免許取得はかなり敷居が高い。余程の必要性がないと受講に結びつかない。
一方、地方ではクルマは必需品。ところが、高齢になると認知能力や動体視力が衰えて事故率が上がることから、75歳を過ぎると免許更新時に認知機能試験を実施する。その結果、免許を返上せざるを得なくなることも多い。
だが、クルマがないと買い物や病院に行くのが不便になることから、高齢になっても安全にクルマの運転ができる状態こそが求められている。
全日本交通安全協会では、主に50歳以上のドライバーを対象とした「シニアドライバーズスクール」を全国で開催してきた。内容は危険体験や長年の運転のクセの矯正などが主だ。これはこれで重要だが、高齢者の衰えた認知能力を向上させるわけではない。
私の所属する東北大学加齢医学研究所では、自工会からの要請で、脳トレがシニアドライバーの運転能力を改善することを検証している。今後はこうした高齢者の認知機能を改善するカリキュラムをもつ自動車学校が求められていくだろう。
英会話スクールなどの語学学校
英会話スクールなどの語学学校も従来は留学を目指す若者が主だった。こちらも人口動態変化に加えて、近年の若者の「内向き志向」の強まりで需要が減っている。
一方、退職後のシニアの海外旅行市場は成長を続けている。また、海外ロングステイ市場もじわじわと伸びており、シニアが海外で過ごす機会が増えている。
だが、数日の滞在であれば、英語ができなくても何とか過ごすことはできるが、やはり異国では英語でコミュニケーションできると、旅の楽しさが倍増する。まして数か月のロングステイになれば英語ができないと何かと不便も多い。
語学の習得も中高年の初級者ほど敷居は高くなる。だが、単なるお仕着せの団体パック旅行ではない、個性的な旅を求めるニーズも高まっている。何度も行けない旅をより個性的に充実するための語学の習得という市場は小さくないだろう。
婚活&ブライダルサービス
かつては中高年向けの出会い・結婚サポートサービスといえば、ひっそりと地味に活動し、新聞などに広告を出す場合でも、小さく目立たないように掲載したものだ。
ところが、創業52年の老舗・茜会が、最近は新聞に全5段で「出会いはいまから、私たち60代」という風にでかでかと広告を打つようになった。
こうした出会いサポートも一昔前は対象年齢が30歳から50代後半程度だったのが、いまでは「35歳から80歳まで婚活中」と年齢層が上がっている。寿命が延びるとともに結婚、離婚の頻度が増え、配偶者亡きあとに再婚するケースも増えてきたことによる。
今後の展望:シニアビジネスは「タイムマシン経営」によって規模がグローバルになる
ここで「タイムマシン経営」とは、高齢化に伴う課題に真っ先に直面する日本でまず商品化し、それを一定の時間差をおいて同様に高齢化に直面する他の国や地域に水平展開することを言う。
たとえば、ユニ・チャームという会社は、日本国内で市場が縮小している赤ちゃん用おむつに代わって大人用おむつで市場を拡大しつつ、海外の新興国で赤ちゃん用おむつの市場を拡大している。
この場合の優位点は、おむつの原料が赤ちゃん用も大人用もそれほど変わらないことだ。つまり、赤ちゃん用の経営資源を大人用に振り替えることで国内でも市場を拡大し、海外では従来の商品を投入して市場拡大を図るやり方だ。
さらに、これを一般化すれば、従来子供用に提供していた商品を大人用に切り替えることで大人用市場を拡大しつつ、海外の新興国では従来の子供用商品を投入して市場拡大を図るビジネスモデルになる。そして、その新興国が高齢化したら、日本で練り上げた大人向け商品を、満を持して投入すればよい。
こうして見ると、シニアビジネスは「時間的な垂直展開」と「地理的な水平展開」とによって、グローバル規模で顧客のライフサイクルにわたるビジネスになる。こう考えると市場可能性は無限大に広がり、暗いイメージに陥りがちな高齢社会に明るい希望を見出すことができる。
これからシニアシフトに取り組もうという企業は、ぜひ、こういう発想で事業を構築してほしい。
参考文献:シニアシフトの衝撃(ダイヤモンド社)