Plus One 2023年1・2月号
“超高齢社会”では要介護が中小企業の経営リスクになる
日本の高齢化率(全人口に対する65歳以上の人の割合)は2022年9月15日現在で29.1%であり世界一です。
高齢化率が高くなると要介護人数が増えます。厚労省によれば2022年2月現在で要介護・要支援認定者は689万人に上ります(図表1)。認定を受けていない人を含めると700万人以上存在すると思われます。
中小企業経営者のピーク年齢は68歳に達しており、まもなく全国で30万人の経営者が70歳を迎えます。中小企業経営者のマジョリティが高齢者になっているのです。
こうした状況で「現役経営者・社員とその家族」が認知症になるケースが増えています。
仙台市で酒屋を営んでいるある女性経営者は、12年前に社長だった夫が心筋梗塞で急死、主婦だった彼女が急きょ経営者になる羽目になり、人生が激変しました。その後、義理の母が認知症になり、会社経営の傍ら6年半介護をせざるを得ず、大変なご苦労をされました。
また、創業30年の会社の創業者が認知症になり、事業承継で苦労された例もあります。会社経営に関することが創業家以外に共有されてなく、資金調達や取引決裁に大きな障害が発生しました。
このように中小企業の場合、経営者・社員とその家族が認知症を含む要介護状態になると、大企業の場合と比べて会社経営への影響が大きくなります。したがって、中小企業こそ経営者・社員とその家族が要介護になるリスクを減らすことが重要です。
要介護状態になりにくい生活スタイルがスマート・エイジング
国民生活基礎調査(2019年)を見ると、要介護になった原因の構成割合は、実は男女で異なることがわかります(図表2)。
男性は脳血管疾患(脳卒中)が非常に多く、次いで認知症が多い。女性は認知症と骨折・転倒、関節疾患が非常に多いのが特徴です。認知症の約3割は脳卒中が原因なので、これを考慮すると女性も脳卒中がそれなりの割合になります。
脳卒中の原因は動脈硬化です。その促進要因は高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった、いわゆる生活習慣病です。したがって、要介護予備軍である経営者の「生活習慣病をいかに改善するか」が企業リスク低減のカギです。
認知症を含む加齢でなりやすい病気は、個人の遺伝要因と、生前・生後に受ける様々な環境要因で生じます。遺伝要因は変えられませんが、環境要因は自分の生活習慣で変えられます。
要介護状態になりにくく、元気にいきいきと過ごすための生活習慣が「スマート・エイジング」です。私が2006年に提唱したもので東北大学ではこの考え方に沿って様々な研究を進めています。
スマート(Smart)とは「賢い」という意味ですので「スマート・エイジング」は「賢く齢を加える」という意味になります。詳しく言えば「個人は時間の経過とともに、たとえ高齢期になっても人間として成長でき、より賢くなれること、社会はより賢明で持続的な構造に進化すること」を意味します。
東北大学では、これまでの医学、心理学、社会学などの知見を統合して、心身の健康を含めて、個人が健やかで、かつ穏やかな生活を人生の晩年まで送るためには、「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4条件が満たされる必要があると結論づけました(図表3)。
この条件と最新の研究成果による知見を踏まえ、スマート・エイジングのための秘訣をお話します。
秘訣その1:有酸素運動をする
前述のとおり、要介護になる原因のトップが認知症と脳卒中です。脳卒中がきっかけで認知症に進む人も多いことから、脳卒中の予防が最重要です。
この予防・改善に有効なのが有酸素運動です。最も手軽なのは1日30分以上歩くことです。有酸素運動は疫学研究で認知症予防効果が検証されており、認知症予防の観点からも重要です。
秘訣その2:筋トレをする
一般に加齢とともに体幹部から下肢の筋肉が衰えます。このため高齢期には歩行時につまずいたり転倒したりして骨折し、入院・寝たきりになりがちです。自力で移動できなくなると認知機能が低下し、認知症になりやすくなります。
これを防ぐには筋トレ(筋力トレーニング)で体幹部や下肢の筋肉を鍛えることです。30分でできるサーキット型トレーニング「カーブス(Curves)」は、中高年の特性を考慮した設計で全国2000店舗、約85万人(2022年9月現在)の中高年女性が利用しており、安心して利用できるでしょう。
秘訣その3:脳トレをする
私たちの大脳の前頭葉の「背外側前頭前野」と呼ばれる部位が脳全体の司令塔となり、記憶や学習、行動や感情を制御しています。実はこの部位の機能は20歳を過ぎた頃から低下します。
特に中高年になると以前より涙もろくなったり、キレやすくなったりするのは、この部位が担っている感情の「抑制機能」が低下したためです。
この機能を維持・向上するのに有効なのが脳トレです。これには「情報の処理速度を向上する」ものと「作動記憶容量を拡大する」ものの2種類があります。
前者の例としては、①大きな声で音読する、②簡単な計算を素早く解く、③手で書く、ことが挙げられます。毎日手軽にできる①の例として、1日800字程度、新聞のコラムなどの音読がお勧めです。また、②、③は市販の脳トレドリルを利用するのもよいでしょう。
一方、後者の代表例としては、「スパン課題」と「Nバック課題」があります。両者とも任天堂の「脳を鍛える大人のNINTENDO SWITCHトレーニング」で実践できます。
特に後者の作動記憶トレーニングを続けると、脳の実行機能、予測や判断力、集中力も向上し、仕事や勉強の効率が上がったり、家事がスピードアップしたり、スポーツが上達したりと、さまざまな効果が現れることがわかっています。
スマート・エイジングを実践し、いくつになっても人生を楽しく豊かにしてください。さらに詳細な秘訣については、拙著「スマート・エイジング 人生100年時代を生き抜く10の秘訣」(徳間書店)をぜひご一読下さい。