シニアがICTに慣れ親しむ方策とは

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シニアがICTに慣れ親しむ方策とは

2021年6月25日 日経MJ連載 なるほどスマート・エイジング

70代以上のネット利用率が急増しているが・・・

総務省「通信利用動向調査」2019年によれば、シニア層のネット利用率は2018年と2019年で比較すると、60代は76.6%から90.5%、70代は51%から74.2%、80歳以上は21.5%から57.5%へ増加しています。特に目立つのは70代以上の利用率が急増している点です。

99年に私が「ネットを縦横に活用して情報収集し、積極的な消費行動を取る先進的な高齢者」をスマートシニアと呼び、ネットの普及と共にこうした人々が増えていくと予言しましたが、20年経ってそれが現実化したと言えます。

その一方でシニアを主要顧客とした事業者からは「まだまだシニア層のネット利用は少ない」と言った声が上がっています。通販ではまだ紙のカタログが好まれ、会員向けの通知も紙ベースの希望が多いといいます。新型コロナウイルスのワクチン接種予約もネットより電話が圧倒的に多いです。

そもそも、なぜ高齢者はICTが苦手なのか

最大の理由は認知機能の低下により新しいことの学習がおっくうになるためです。

私たちの認知機能は一般に20歳を過ぎると加齢とともに衰えていくことがわかっています。認知機能の中核は大脳の前頭葉の「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」と呼ばれる部位で、記憶や学習、行動や感情を制御しています。

この部位の中核機能の一つに「作動記憶」があります。これは短時間に情報を保持して処理する能力です。ところがこの作動記憶量が加齢と共に減っていくため、新しいことの理解に時間がかかるようになります。すると「新しいこと=ICT」の学習がおっくうになるため「昔からなじんだ安心なもの=電話など」を好むのです。

前掲のスマートシニアのくだりの通り、シニアのネット利用率は時間と共に増加するので、高齢者でもネット利用が当たり前の時代がいずれやってきます。しかし、それまでの間、シニアがICT利用を促す方策がサービス提供側、利用側の双方に望まれます。

「徹底的に使いやすい」インターフェイスが重要

例えばチカク(東京・渋谷)「まごチャンネル」は、シニアが使い慣れているテレビを中心とした簡単操作とICT機器らしくないデザインが好評です。家の形の受信ボックスを自宅のテレビとケーブルでつなぐだけで使え、通信回線は内蔵なのでネット環境は不要です。コロナ禍で子供や孫に会えない老親のために子供が導入する例が増えています。

子供や孫とのコミュニケーション機会はシニアのICT利用を促します。日本でSNSのLINEが普及した理由として、利用者が多い子供との連絡のために親が導入したことが大きいのです。

一方、利用者側にとって「使うと得」なことが重要です。利用時の買い物ポイント付与、割引は日々の出費を抑えることに敏感なシニアに響きます。バーコード決裁のPayPayはスマホでの電子決済では後発でしたが、サービス導入時に多くのポイント付与を行い、利用者を一気に拡大しました。

つまり「毎日の生活に不可欠」「ないと生活できない」というアプリの存在がシニアのICT利用を促すでしょう。例えば、健康保険証や自動車免許証、パスポートをスマホ化すれば、導入は飛躍的に進むでしょう。

新型コロナウイルスのワクチンパスポート、接種証明もイスラエルなどと同様にスマホ化すれば旅行好きなシニアは導入するでしょう。デジタルの普及には使いやすい生活密着型サービスとの連携が不可欠です。

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