ノジュール2020年5月号 今日から始めるスマート・エイジングのススメ第8回
「会社軸」で生きると「自分軸」で生きる
「会社軸」で生きる……「会社の基準」を中心にして生きるということです。会社の基準とはつまり、会社ミッションや組織文化、社風、ならわしなどです。
多くのサラリーマンは「会社軸」で生きていると思います。そして「会社軸」で生きている時間が長いほど、自分の生き方や日々の行動のかなりの部分が、会社の規則や社内慣行に強く影響を受けています。
これに対して「自分軸」で生きるとは、「自分の基準」を中心にして生きるということです。こういうと「そんなの当たり前じゃない。自分の基準で生きているよ」という方もいらっしゃることでしょう。
しかし、自分の基準で生きていると思っていても、サラリーマンなど仕事に長く身を置くと、無意識のうちにどっぷりと「会社軸」で生きているものです。
では、なぜ、「会社軸」でなく「自分軸」で生きることが重要なのでしょうか。その理由は、人生100年時代には会社軸で生き続けることに多くの弊害があるからです。
「会社軸」で生きることの弊害とは?
第一の弊害は、いつも他人に責任転嫁する習慣が身につくことです。重要な意思決定は上司や経営トップがするもので自分の役割ではないと思ってしまう。その結果、自分の頭で意思決定のために考えようとしなくなる。
こうした習慣で長い間過ごすとそのうちに意思決定の能力も失われ、いつも他人に責任転嫁する癖がつきます。
第二の弊害は、その会社を離れた瞬間、それまでの待遇も人脈もなくなることです。会社軸で生きている多くの(特に大企業の)サラリーマンは、仕事上の人脈や待遇が自分の実力だと勘違いしがちなことです。
しかし、実際は○○株式会社の××課長などという看板があることで得られたものが非常に多いものです。そうした人脈は、会社を辞めた途端にその多くが切れてなくなるものです。
第三の弊害は、特に男性の場合が多いかもしれませんが、家族の課題から逃げる口実になることです。サラリーマンは、独身時代には会社軸で生きていてもあまり周囲と摩擦が起きません。
ところが、結婚して子供ができると、新たに「子供軸」ができます。すると会社軸で生きる夫と子供軸で生きる妻とが乖離して、夫婦関係に溝ができます。子育てが一段落する頃、今度は老親の介護が必要になり、介護中心の「介護軸」で生活する必要性も出てきます。
サラリーマン時代は「家族を養うために会社の仕事をしている」と言って会社軸にしがみつくことで、こうした夫婦間や家族間の課題から逃げる口実ができました。
「自分ミッション」の重要性
「会社の基準」において「会社ミッション」が重要だったように、「自分の基準」においても「自分ミッション」が重要になります。会社ミッションは、その会社が果たすべき使命であり、存在意義です。
これにならえば、自分ミッションの狙いは「自分は何のために存在するのか」をはっきりさせることになります。
会社軸で長く生きていると、この本質的な問いに対する答えも仮説もないまま、漫然と毎日を過ごしがちです。すると、定年退職して会社軸がなくなったあとは、さらに輪をかけて毎日を漫然と過ごしてしまうのです。
こうした生き方を「成り行き型の生き方」と言います。自分で主体的に生きているようで、実はすべてを会社や他人などの自分以外の成り行きに任せてしまう……。こういうタイプの人がサラリーマン退職者に非常に多いようです。
「成り行き型の生き方」にならないためには、まず「自分ミッション」を持つことが重要です。「自分ミッション」というと大仰な感じがするかもしれませんが、そんなに難しく考える必要はありません。
要するに、自分は残りの人生でいったい何をしたいのか。それにはどういう意味があるのか。なぜ、それをしたいのか。こうしたことを言葉で整理することです。できれば退職前のなるべく早いうちに決めておくのが望ましいですが、退職された方も今から取り組めばよいでしょう。