高齢化率が変わると人々の意識・消費行動が変わる

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シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第134回

アジア各国が超高齢社会になるのはいつか?

私は海外でのコンファレンスや海外企業からの招待により講演したり、現地企業の人たちと意見交換したりする機会が多い。

長年に渡るこうした経験から感じるのは、その国・地域の生活水準・所得水準が日本と同等以上であれば、高齢化率によってそこで求められる商品・サービスの需要が変わることだ。

日本の高齢化率は2017年現在27.3%で世界一である。一方、アジア各国の高齢化率は2016年現在で香港15.6%、韓国13.6%、台湾12.5%、シンガポール12.3%であり、日本よりもまだ低い。これらの国々の高齢化率が現在の日本並みになるのはこれからである。

「超高齢社会」とは国連が定義したもので、高齢化率が21%を超えた社会をいう。日本は2005年に超高齢社会となった。アジア各国では韓国とシンガポールが2027年、中国が2035年頃、それぞれ超高齢社会になると予想されている(図表)。

これらより、いま日本で需要の大きい商品・サービスが、どの国で概ねいつ頃に需要が大きくなるかが予想できる。海外、特にアジア各国での事業展開の際は、これを理解して展開のタイミングを間違えないようにしたい。

日本の過去15年間でどのような意識変化が起きたか?

(1) 退職後の就労に対する意識変化

2000年代中頃までは、退職後は仕事をやめてのんびり過ごすライフスタイルが「ハッピーリタイアメント」の理想形だった。しかし、その後定年退職直後は多少遊ぶものの、退職後も週3日程度は仕事を続けたいという「半働半遊派」が増加した。

こうした意識変化は、年金制度や社会保障制度の先行き不透明感から稼げるうちは稼いでおくことで安心感を得たいという気持ちから来ているものだ。

一方で、「毎日が日曜日」よりも適度に仕事がある方が生活にリズム感が生まれ、社会とのつながりも保てて健康的であるという意識も強まってきた。近年政府が「一億総活躍社会」を提唱しているが、このような政策は高齢者の就労意識の変化を反映したものと考えられる。

(2) 介護・高齢者施設に対する意識変化

公的介護保険制度の導入以前は、特別養護老人ホームといった介護施設だけでなく、有料老人ホームですら、限られた一部の人たちの特殊な施設と見られていた。こうした施設・住宅の建設計画が告知されると、周辺住民が建設反対運動を起こすのが常だった。

ところが、2000年4月以降に民営の有料老人ホームが、2011年11月以降にサービス付き高齢者向け住宅が劇的に増加した。また、デイサービスセンターや訪問看護ステーションといった施設も町の至る所で目に付くようになった。

一方、社会の高齢化の進展で、自分の両親や親せき、友人知人などの身近な人たちが要介護になる割合も劇的に増えた。

このような「介護の日常化」によって、従来「自分には関係ない」と思っていた多くの人が、「明日は我が身」と思うようになった。こうした意識変化が、できるだけ要介護状態にならないための介護予防意識を高めることになる。

(3) 認知症に対する意識変化

2004年まで認知症は「痴呆」と呼ばれ、一度患うと徐々に自分が自分でなくなり、二度と正常に戻れず死に至るといったイメージが強かった。だが、2004年に厚労省で認知症への名称変更が行われ、「痴呆」という言葉のネガティブなイメージが薄らいだ。

一方、認知症人口が増えたこと、メディアで取り上げられる頻度が多くなったことで、認知症が多くの人にとって身近になった

さらに、学習療法などの認知症改善プログラムが普及したことや認知症の人々の行動や心理状態に対する理解が深まってきたことで「認知症は特殊なもの」という偏見が少なくなってきた。

他方、「自分は認知症にならないようにしよう」という予防意識も強まってきている。

意識レベルが異なると求めるサービスレベルも異なる

社会の高齢化率が変わるとその社会で生きる人々の意識レベルが変わる。すると、消費行動も変わる。例えば、介護というサービスでも、人々の介護に対する意識が異なると求めるサービスのレベルも異なる。

したがって、高齢化率で世界のトップを行く日本の人々の意識変化が、いつ頃、どのように起こったのかを理解すると、アジア各国の人々の近未来の消費行動を予想するのに役に立つ。

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