日本経済新聞夕刊 2016年11月2日 読み解き現代消費
日経夕刊2面の連載コラム「読み解き現代消費」に『シニアの民泊提供広がる 「3K不安」解消に一役』を寄稿しました。
「読み解き現代消費」は、毎週水曜日、気になる消費トレンドについて、その背景などを読み解くコラムです。私も執筆者の一人に名を連ねており、一か月半に一度のペースで寄稿しています。以下に全文を掲載します。
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兵庫県の淡路島で一人暮らしする高橋栄子さん(仮名、82)は、数年前に夫を亡くしたのをきっかけに、自宅の空き部屋を他人に貸して収入を得る民泊を始めた。大きな美しい庭でゆったりとバーベキューができるのが人気で、週末は予約で一杯になる。
近隣の神戸や大阪から20代の会社員や学生のグループ、30代子連れファミリーが多く利用している。高橋さんは「特におもてなしに大きな気を使っているわけではなく、年齢に関係なく、一緒に楽しい会話に参加してお友達のように接している」という。
海外からの来客も多く、スイス人カップルが新婚旅行で訪れたこともある。高橋さんも英語は得意ではないが「話せなくても身ぶり手ぶりや筆談で心は通じるもの」と意に介さない。最終日はハグをするほど名残惜しくなるとのことだ。
高橋さんのようなシニアによる民泊がじわじわ増えている。ネット上で民泊を仲介する「Airbnb(エアビーアンドビー)」の最近の調査では、日本でエアビーアンドビーを利用して民泊を提供する60歳以上のシニアホストは前年比235%増えた(人数は約900人)。年齢別でも、「60~90歳」の伸びが最も大きい。
さらに興味深いのは都会よりむしろ地方でシニアホストの割合が大きいこと。和歌山県田辺市、静岡県伊東市、大津市といった地方都市が上位に並ぶ。これらの地域には世界遺産や観光地に近いという共通点がある。
シニアによる民泊提供は、シニアが抱える「3K(健康、経済、孤独)不安」の解消につながるだけでなく、国内外からの訪問者を増やし、地方経済の活性化にも貢献する。
民泊は旅館業界ではグレーな存在ともいわれる。だが、速やかなルール整備により、高齢者への補助金バラマキではなく、高齢者自身の自主的活動を促すのが日本のような超高齢社会に不可欠なアプローチだろう。