朝日新聞 2015年5月25日 なるほどマネー Reライフ 人生充実
定年後起業の4つの落とし穴
昔に比べると起業のハードルはかなり下がりました。株式会社設立のための資本金は、以前は最低1千万円必要でしたが、現在は1円でも設立できます。また、多くの地方自治体が起業資金を市場金利よりもかなりの低利で融資するなど、一昔前に比べて起業環境は格段に改善されています。
しかし、会社は設立できても存続するには、従業員1人の会社でもそれなりの「経営」が必要です。現在、創業企業の廃業率はおおむね1年以内30~40%、3年以内70%、10年以内80%と言われています。
つまり、8割の企業が10年以内に廃業しているのが現実です。そこで今回は「定年後起業の落とし穴」についてお話しします。順を追って陥りやすいパターンを見ていきましょう。
【客がいなくて開店休業になる】
本連載第2回で「顧客がいるなら起業する」のが基本と述べたように、前職時代の顧客が起業後も顧客になってくれることがよくあります。ところが、こうした前職時代の神通力は長くて3年だと思った方がよいでしょう。
したがって、起業後は新規顧客開拓が極めて重要です。WEBサイト、メールマガジン、フェイスブックなどを駆使して自社の強みを顧客に知ってもらう活動が必要です。そのためのITスキルは不可欠です。黙っていても、顧客はやって来ません。
【固定費をかけすぎて手持ち資金が枯渇する】
開業したてなのに、立派なオフィスを構え、備品も高級なものをとりそろえ、複数のスタッフを雇用する例があります。これまで大きな組織にいて経営者の経験がない人が陥りがちです。起業初期の売り上げがほとんどない段階では、自前のオフィスは持たず、スタッフは自分1人または家族でやりましょう。
【前職時代の看板がなくなったのに自分には実力があると勘違いする】
特に大企業出身者に多く見られます。DさんはあるIT企業を早期退職してITコンサルタントとして独立しました。起業後すぐに古巣の会社に高額な「戦略コンサルティング」の企画提案をしましたが、全く受け入れられず、後輩からも煙たがられました。
このように、前職時代の会社の看板が自分の実力だと勘違いする例は、意外に多いので注意が必要です。また、長年勤めた大企業時代のアカは無意識にたまっているものです。これをなるべく早くそぎ落とす意識改革が重要です。
【自宅を事務所にして公私混同が起きる】
固定費を最小化するために自宅を事務所にしたものの、生活の場と仕事の場が同じになり、ストレスがたまりやすくなる例があります。特に自宅が都市部から離れていると定年後は人のにぎわいのある場所に出かける機会が減り、ビジネス感覚が鈍くなる傾向があります。
また、自宅が事務所だと会社の電話番を奥さんに頼むことがありますが、これは絶対やめましょう。四六時中問い合わせが来るために、奥さんは気を抜けなくなり、ストレスがたまります。多少費用はかかりますが、都市部にあるレンタルオフィスを借りて、定期的に通うことをお勧めします。
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