日本経済新聞夕刊 2014年4月30日 読み解き現代消費
ネット時代の高齢者像として「スマートシニア」という概念を提唱してから15年
インターネットを縦横に駆使して情報収集し、旅行やレジャーに出かけたり、通信販売で気に入った商品を購入する――。私が「スマートシニア」と呼ぶ、そんな高齢者が増えている。
総務省の「通信利用動向調査」によると、シニア層のネット利用率は2001~12年の11年間で、60~64歳が19.2%から71.8%に、65~69歳が12.3%から62.7%に、70~79歳が5.8%から48.7%に急上昇した。
私がネット時代の高齢者像として「スマートシニア」という概念を提唱してから15年たつ。当初は「コンセプトは面白いが、そんな人はどこにいるのか」と何度も質問されたが、いまの高齢者層では決して珍しい存在ではない。
決して「衝動買い」はしないスマートシニア
ネットを通じて多様な情報に接し、スマートに(賢く)なったシニアの行動は様変わりした。
例えば、筆者がある老人ホーム経営者から聞いた話では、以前は説明会を開くと、入居一時金4000万円でも600人の参加者中50人はその場で入居を希望したが、最近は1000万円でも即決する人はいない。
ネットで得た様々な情報を比較・検討し、最善のものを選ぶことを学んだシニア層は、決して「衝動買い」はしなくなったというのだ。
私の研究に基づく予測では、2025年には83歳で要介護者とそうでない人が半々で、ネット利用率は45%に達する。10年後には、後期高齢者でも日常的にネットを利用することが当たり前になると思われる。
その効果がはっきり現れるのは「買い物行動」だろう。現在は折り込みチラシやテレビ番組が主体だったシニアの通販利用がネットにシフトしてゆく。高齢者が身体機能の衰えから店舗に行くのが困難な「買い物弱者」になりがちな問題の解決策にもなるはずだ。
今後、高齢者の消費パワーへの注目が高まるにつれ、流通業にとってスマートシニアへの対応は重要性を増すだろう。