2006年11月10日号 シルバー産業新聞
訳者の1人村田裕之氏は本紙好評連載「社会変化が生み出す新事業」の著者。同氏は本書を訳す動機について「人が年齢を重ねていくことの意味を深く考えるための示唆に溢れている。この示唆を多くの方におつたえしたい」とネット上で綴っている。年齢を重ねてこそ湧き出る積極的な力があることを本書は教えてくれるのだ。
著者は、ジョージ・ワシントン大学加齢健康人文科学研究センター長で、脳研究の世界的権威者である。最先端を走る第一人者が最近の研究を紹介しながら「脳は若返る」ときっぱり断言するのだから説得力は十分。
話は高齢者の脳に関する従来の常識を完全に否定することからはじまる。①脳に新しい神経細胞は生成しない②年長者の脳には若者と同等の学習能力はない③神経細胞同士の結びつきは生涯にわたり絶対的に固定されている――など脳科学の常識とされてきた説が、この20年間の研究により完全に否定されたと著者は強調。年齢を重ねた脳には実は大きな潜在能力が秘められている。だから著者は「加齢とは最も広義の人間能力の発達を継続させ、活力を与え、報いるもの」と定義する。
人間は育った文化の違いに関係なく人生の後半生4つの心理的発達段階があるという。この発達段階があるからこそ、高齢になっても数々の偉業を人は成し遂げ、創造的な仕事に取り組む。本書の魅力のひとつに有名無名を問わず、そうした人々のエピソードが無数にちりばめられていることだ。
年齢をごまかして80歳まで働いた女性。96歳で建築コンペに参加した男性。122歳まで生きた世界最高齢の女性は85からフェンシングを始めた。全ては年齢を重ねた脳に、潜在能力が備わっているからだ。
そして著者は脳の発達に大切なのは社会や人とのつながりだと説く。だからこそ「リタイアメント」後の人生が高齢者にとって鍵になる。「リタイアメント」に1章割かれたのはその重要性を強調したかったためだろう。
村田氏は解説でこうしめくくっている。「エイジングをくい止める“アンチエイジング”にこそ価値があるという論が近年かまびすしい。しかし本書を読めば、このような考え方が、いかに視野が狭く、人間の潜在能力を矮小化した見方であることか、よくおわかりいただけるだろう」。本のオビには聖路加国際病院院長の日野原重明氏と東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太氏の賞賛の言葉が載せられている。読み終わると両氏が賞賛したのも納得できるだろう。