シルバー産業新聞 連載「半歩先の団塊・シニアビジネス」第132回
長時間のテレビ視聴は認知症予備軍への道
現役サラリーマン時代には毎日定期的に出かける場所があった。だが、退職後はそれがなくなる。毎日やることがないと、自宅にいる時間が増え、テレビを長時間観るだけの目的のない時間つぶしが増えがちだ。
実はテレビを観ている時に私たちの大脳の前頭前野に抑制がかかることが私のいる東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターの研究で明らかになっている。
脳活動に抑制がかかるということはリラックスしている状態である。短時間であれば疲れた脳を休めるうえで有効だ。だが、これが1日6時間、7時間も続くようだと脳機能の低下を促し、認知症予備軍への道をたどることになる。
また、高齢になると一人暮らしが多くなり、外出機会が減りがちだ。外出が減ると、運動機会も減り、足腰が衰えて転倒骨折のリスクが高まるだけでなく、一人でいる時間が長くなり、うつになる傾向も強まる。
退職後も仕事を得て自宅外での活動機会を得る
これらを防ぐには、やはり退職後も何らかの仕事を得て、自宅外での活動機会を得るのが望ましい。仕事を通じて年金以外の収入を得られるなら、さらによい。「それが理想だが高齢になると現実には難しい」と思うだろう。
しかし、例えば、徳島県上勝町では80代の女性が料理を彩る「つまもの」を生産・販売する「葉っぱビジネス」で年収1千万円以上稼いでいる人もいる。
仕事を通じて年金以外の収入を得ることのメリットは
仕事を通じて年金以外の収入を得ると何がいいのか。第一に、生活に余裕が出る。旅行に行ったり、孫にプレゼントをあげたり、といったことがしやすくなる。上勝町の例では孫に家を買ってあげたという人もいた。上勝町は住宅価格も東京に比べかなり安いとは思うが、それなりの収入がなければ不可能だ。
第二に、生活にリズムが出る。お年寄りたちは、葉っぱビジネスの仕事がなかった頃は、毎日やることがなく、家でだらだらテレビを見ていたり、ごろごろ寝ていたりする時間が長かったという。
しかし、葉っぱビジネスに参加するようになってからは、毎朝決まった時刻に起床し、やることが多いのでその日の作業の段取りを考え、優先順位を決めてから取りかかるという「仕事のリズム」のある生活になった。
第三に、仕事を通じて社会とのつながりが保てる。人と接してコミュニケーションする機会があることで、生活に「張り」が出て気持ちも明るくなる。
旅行会社「クラブツーリズム」(東京都新宿区)では、「エコースタッフ」という年配の顧客約8000人が毎月、会報誌「旅の友」を一人250部近所に配り、数万円程度の収入を得ている。金額は少なくても、配布先の人と旅の話題で交流でき、楽しいと評判だ。
これ以外にも、各自治体が運営するシルバー人材センターに登録して、仕事を見つける方法もある。
仕事を続ける方が高齢になっても病気になりにくい
厚生労働省の調査で、高齢者の有業率(仕事を得ている率)が高いほど、一人当たりの老人医療費が少なくなることが分かっている(図表)。つまり、仕事を続けている方が、高齢になっても病気になりにくいことを示している。
私が知る限り、退職後も適度に仕事を続けている人の方が、何もしていない人よりも圧倒的に健康で元気な例が多い。経済的な余裕と生活のリズム感を得て、いきいきと暮らすことができるからだ。
以上より、私は退職後も何らかの仕事をして、年金以外の収入を得る生活を強くお勧めする。経験豊富で体力に自信のある団塊世代の退職者は、前職時代の経験を生かして起業するのもいいだろう。なるべく自分の得意な領域で、無理のない範囲で仕事をして社会参加の機会を維持することが重要なのだ。