毎日新聞 2013年2月1日 連載 村田裕之のスマート・エイジング 第10回
自分らしく生きる、という言葉はよく耳にします。それは、自分の好き勝手に生きることでしょうか。
そもそも「自分らしさ」とは何でしょうか。
新約聖書に登場する有名な女性、サロメは「人間は7枚のベールをかぶっている。6枚目のベールまでは脱ぐが、7枚目のベールは自分ですら脱がない」と言っています。つまり、本当の自分は自分ですらわからない、と。
ところが、友人や知人から「そういうところが○○さんらしい」などと言われることはありませんか?自分らしさというのは、自分は気がつかないけれども、他人は気がつくという性質があります。自分らしさとは、他人がいて初めて認識されるものと言えます。
米国の著名な病院「メイヨー・クリニック」のロビーでボランティアのピアノ演奏会が大評判の93歳と88歳のコーワン夫妻がいます。愛らしい演奏風景は動画投稿サイト「YouTube」で約1000万回も視聴され、全米の注目を集めました。
重要なのは、コーワン夫妻が全米の注目を集めたことではありません。クリニックのロビーの観客やYouTubeの視聴者という「他者との関係性」によって、理想のおしどり老夫婦としての「コーワン夫妻らしさ」が形成されていったことです。
自分らしさは「他者との関係性」で規定されるのです。ただし、そのためには自分の内面から湧き出るものが必要です。
それは、自分が本当に好きで無我夢中になれること。好きなことに夢中なときこそが、一番その人らしく輝いて見えるのです。
自分らしく生きたいと思うなら、好きなことに取り組むこと。そして、他者との関係性を良くすること。つまり、自分の周囲にいる人たちと良い人間関係を築くことが大切なのです。