日経ビジネス 2013年4月8日号 時事深層 指標で読む
「超スマートシニア」の登場は小売業界に大きな衝撃を与える
これまでデジタル化の波に乗り切れなかったシニア市場。だが90歳のおばあちゃんがタブレットを使いこなす日は近い。「超スマートシニア」の登場は小売業界に大きな衝撃を与える。
最近、街を歩けばスマートフォンを操作している高齢者の姿に出くわすことが多くなった。実際、年齢別インターネット利用率はここ10年間で高齢者の伸びが顕著。
増えている理由はネットを使わなかった人が利用するようになったことと、若い時代に使っていた人が年を取ってもネットを利用し続けていることだ。このペースでいくと2025年の高齢者のネット利用率は飛躍的に増えることが予想される。
上のグラフは女性人口と要介護人口の数だが、男性も同じような推移をたどる。そこにネット利用率の予測を合わせてみた。例えば83歳では要介護者とそうでない人の割合が50%ずつ。そしてネットの利用率は45%だ。
すると流通業界において高齢者のネット通販利用が劇的に増える。今、高齢者の通販の利用と言えば、折り込みチラシやテレビ通販の利用がせいぜいだが、それがネットにシフトしてゆく。
シニアがネットをどんどん使うようになれば、小売業は転換期を迎える。百貨店のように店頭販売が主流の小売業は今の業態のままでは、シニア顧客は離れていくことだろう。これに対し、一部の通販会社は来る2025年に向けて、着々と準備を進めている。
例えば、ある通販会社のタブレット用画面は、きめ細かいナビゲーションシステムを備え、ワンクリックで商品が買える使い勝手のよさがある。今後シニアが使うデバイスの主流はタブレットになりそう。スマホは画面が小さいし、パソコンは設定や接続が面倒だ。
「幸せシニア」になるために
ここで生じる懸念は、高齢者のネット利用率が上がり外出を控えるようになると肉体的に衰え、要介護者が増えるのではないかということ。
私はシニアの生活スタイルが2極分化すると考える。1つは超スマートシニアとも呼ぶべき高齢者の出現だ。デジタル機器を使いこなし、老化予防の策を講じ、健康寿命を延ばすことだろう。仮に要介護状態になっても情報を探り、欲しいモノ・サービスを受け、自分に合った施設を探せる。移動が不自由なこと以外は健康時と同じ機会が得られる。
一方、デジタルに抵抗を示す高齢者は、超スマートシニアに比べて、周囲の人の手を借りなければならず健康な時にあった多くの機会が失われる。
2012年、日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は24.1%。既に様々な生活シーンでシニアシフトが進み、既に紙おむつ市場は「大人用」が「赤ちゃん用」を逆転した模様。高齢化が進めば進むほど、市場はシニアシフトへと向かう。デジタル関連市場もようやく、シニアシフトが加速しそうである。