AARP国際会議報告:世界の注目を浴びる超高齢社会・日本

AARP国際会議に日本人唯一のスピーカーとして参加 国際活動
AARP国際会議に日本人唯一のスピーカーとして参加

2004年11月17日 AARP・Financial Times共催 Reinventing Retirement

AARPとは何か

AARP(エイ・エイ・アール・ピー)とは、50歳以上の会員4,000万人(2015年当時)をもつ世界最大の高齢者NPOのことです。旧称はAmerican Association of Retired Personsで、AARPはその略称でしたが2004年に正式名称になりました。日本では長い間、旧称の和訳の全米退職者協会と呼ばれてきました。

1958年設立の全米教職員退職者協会が始まりで、1962年に全米退職者協会となりました。ワシントンにある本部だけで2000人以上のスタッフを有する巨大組織です。

全米の全ての州に支部があり、地域ボランティア活動をけん引するNPOとしての顔、上院議員が最も恐れるロビー団体としての顔、会員向けに保険や旅行商品を効率的に売りさばくマーケティングマシーンとしての顔があります。

以前は日本の労働団体や高齢者団体を中心に多くの日本人がAARPを訪れました。しかし、その大半が「AARP詣」と呼ばれ、視察という名の実質「観光旅行」にとどまっていました。

AARPのことを「アープ」と呼ぶ人が時々いますが、これは間違いです。「エイ・エイ・アール・ピー」が正式名称です。

2009年2月、AARPと東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターとが包括的学術協定を締結しました。日本の大学がAARPと公式な協定を締結するのは初めてのことでした。

国際会議「リタイアメントの再創造」参加報告

AARPと有力経済紙ファイナンシャルタイムズの共催で2004年11月17日から19日までロンドンで開催された国際会議に招待スピーカーとして出席しました。私はこの会議で唯一の日本人スピーカーでした。

会議のタイトルは「Reinventing Retirement」。Reinventingとは「再創造」の意味なので、そのまま訳せば「リタイアメントの再創造」。意訳すると「社会の高齢化に適応する新しい老後社会モデルの創出」という意味です。

会議には、欧米の行政・政策担当者、民間企業、NPOのトップリーダーたちが参加しました。日本からも民間企業や高齢者団体からの参加がありました。

議論された主なテーマは、①人口構成の不均衡(高齢化・少子化)、②年金危機、③労働市場の変化、④リタイアメント・パラダイムの変化、の4つでした。

世界最速の高齢化国家 日本が世界の注目を浴びている

3日間に渡る議論を通じて改めて感じたのは、高齢化に関わる諸問題は日本固有のものでなく、先進国共通の大きな課題であることと、世界最速の高齢化国家 日本が世界の注目を浴びていることです。

私が参加したパネルディスカッションでも、日本の動向に関して多くの質問を受けました。このパネルの私以外のメンバーは、イギリスの高齢者NPOとして著名なAge Concern代表 ゴードン・リシュマン氏、ベルギーの国会議員で社会保障政策委員会の委員長であるアネミー・ファン・ドキャスティーレ氏。そして、モデレータは、AARPの政策・戦略ディレクタージョン・ロザー氏でした(写真)。

AARPは、アメリカで国会議員に最も影響力のあるロビー団体としての顔を持っていますが、ロザー氏は、そのロビー部門のトップの方です。AARPが政策に関する発表をするとき、必ずメディアに登場する有名な方です。

日本の「年金改革法」とコインの裏表の「改正高年齢者雇用安定法」への大きな関心

パネルの場でロザー氏から私に対して、今年日本で成立した「年金改革法」とそのコインの裏表である「改正高年齢者雇用安定法」、およびこれらの制定に伴う国民の反応と政府の対応への突っ込んだ質問を受けました。

ロザー氏はじめ、多くの出席者にとって自国の年金制度をどのように持続的にしていくかが、大きな課題となっています。今年日本で起きた年金制度変更に関わるさまざまな出来事は、彼らにとっても他人事ではないのです。

また、先進国のオピニオン・リーダー158人に実施した「グローバル・エイジングに関する調査」の最新報告もありました。この報告の中で、「先進国が次の20年で直面する経済課題のトップ3を挙げよ」という設問に対して、「人口の高齢化」と「少子化」が最も重要な課題として挙げられていました。

以上のとおり、高齢化に伴う諸問題の重要性は、先進国での共通認識となっています。ところが、各国での取り組みに関する情報がほとんど共有されていないのが現状です。

日本企業による高齢者活用の取り組みやビジネスの動きはほとんど知られていない

とりわけ、日本の状況については、経済指標などの統計数値以外の情報、たとえば、企業における高齢者活用の取り組みや新しいビジネスの動きなどは、全くと言ってよいほど知られていません。

ジャパン・パッシングと言われるようになってから、国際舞台での日本の存在感は間違いなく下落しています。アメリカをはじめ、多くの国は日本よりも中国の動向に注意を払っています。

しかし、冒頭に述べたように、高齢化問題に関しては、日本は依然世界の注目の的です。こういう事実を日本人はもっと認識すべきでしょう。

ただし、これからの日本は、世界最速の高齢国家という理由で注目されるのでは不十分です。むしろ、社会の高齢化に伴う複雑な諸問題に果敢に取り組む「智恵と勇気の国民」としての姿を世界に示すことが必要です。

それが、これからの時代に日本という国が取りうる新しい国際貢献のあり方となるからです。

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