日本経済新聞夕刊 2015年5月13日 読み解き現代消費
仙台市にある東北大学スマート・エイジング国際共同研究センターでは多くの中高年を目にする。とりわけ50代から70代の女性が目立つ。センター6階に女性専用フィットネス「カーブス」があるからだ。
利用者の多くはエレベーターを使わず階段で昇り降りし、顔を合わせると大きな声で挨拶してくれる。すぐそばの大学病院のロビーですれ違う同年代の女性に比べると明らかに元気でいきいきしている。
カーブスの利用者は1回30分、筋力トレーニングと有酸素運動、ストレッチで汗を流す。3カ月も通えば大抵の人は元気になっていくのだが、実はこれ以外に興味深い変化が見られる。
まず、運動着以外にも服を買うようになる。運動して痩せてスタイルがよくなるからだ。次に、靴やカバン、化粧品やアクセサリーなども買う。そして、仲間と一緒に旅行に行く頻度が増える。心身が元気になり、気持ちが前向きになるので、きれいな格好をして仲間と一緒にお出かけしたくなるからだ。
なぜ、筋トレや有酸素運動によって、こうした変化が出るのだろうか。
私たちの額の奥にある大脳の前頭前野には意欲の中枢がある。実は中高年に多いうつ病や認知症を患っている人は、この部分の機能が低下している。
東北大学の研究では、筋力トレーニングや有酸素運動などでこの部分を活性化すると気持ちが前向きになり、活動意欲が強まって消費も増えることがわかっている。平たく言えば、元気になると財布のひもが緩みやすくなるのだ。
このように心身が元気になると、医療・介護費が減るだけでなく、消費拡大にもつながる。運動しないで不健康になり、要介護状態になって、大人のオムツなど介護用品にお金を使うより、元気でいて、おしゃれをして、旅行に行く方が、個人にとっては、はるかに有意義なお金の使い方ではないだろうか。