達成すると嬉しい目標を立てる効果とは?中高年の意欲と生きがいを高...

秘訣その5 達成すると嬉しい目標を立てる

「元気」や「やる気」を感じさせる「報酬系」とは?

ドーパミン私たちは何かを達成したときや、誰かに褒められたとき、嬉しく感じたり、もっと頑張ろうという気持ちになったりします。

実はこういうときに、脳内のある神経ネットワークに「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、私たちに「元気」や「やる気」を感じさせます。

この神経ネットワークのことを「報酬系」といいます。

脳の奥にある、視床と呼ばれるところから延髄あたりまでを脳幹といいます。

ここに、神経細胞が多く集まる神経核と呼ばれる部位があります。

この神経核のうち、A8からA16までがドーパミンを合成する部位で、特にA9とA10が重要です。

A9は中脳の「黒質」という部位で、あとで詳しく述べますが、運動の調節に関わっており、その異常がパーキンソン病につながります。

そして、A10が中脳の「腹側被蓋野」という部位で、ここから伸びているA10神経ネットワークが報酬系です。

報酬系は、腹側被蓋野から伸びて大脳辺縁系にある線条体の「側坐核」と、その先にある「前頭連合野」につながっています。

側坐核にドーパミンが放出されると、私たちは元気ややる気を感じます。

前頭連合野は、私たちが思考したり情緒をコントロールしたりする場所で、そこにもドーパミンが放出されます。

そのため、報酬系は、やる気や行動だけでなく、記憶や学習にも関係しています。

「元気」「やる気」を生み出すドーパミンとは?

ドーパミンは、かつて「快楽物質」と呼ばれていました。

今でもそう呼ぶ研究者もいます。

しかし、報酬系に詳しい東北大学の筒井健一郎教授によれば、ドーパミンには「元気」や「やる気」、「求める気持ち」を生み出す役割があると考えられています。

ドーパミンは脳内でのみ合成される神経伝達物質です。

神経伝達物質は、神経細胞同士、または神経細胞と他の細胞との接合部であるシナプスの間に広がって、情報伝達を介在します。

シナプス実はシナプスでは、神経細胞同士は直接つながっていません。

シナプスには、前細胞に神経伝達物質の合成系、後細胞に受容体があり、ドーパミンなどの神経伝達物質はシナプスの前細胞から出て、後細胞にある受容体でキャッチされます。

このメカニズムにより、情報が伝達されます。

神経細胞における情報伝達の仕組みを整理すると、次のとおりとなります。

  1. 神経細胞の軸索起始部から、その末端の軸索終末までは電気信号で情報伝達される。
  2. シナプスで神経伝達物質により、化学的に情報伝達される。
  3. そこから先は、また電気信号で情報伝達される。

ちなみに、神経伝達物質には、グルタミン酸、GABAなどのアミノ酸があり、それぞれ興奮性、抑制性の情報伝達を担っています。

加えて、「調節系」というべきものがあります。

ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの「モノアミン類」がそれです。

体内でドーパミンがノルアドレナリンに変わり、ノルアドレナリンがアドレナリンに変わるという合成が起きます。

これらの神経伝達物質は、広く脳内の情報伝達を調節しています。

また、統合失調症やうつ病などのさまざまな精神疾患においては、このモノアミン類の伝達物質の働きの不調が起こっているといわれています。

一方、快楽物質に近いのは「秘訣その9」で述べる「オピオイド」と呼ばれる物質です。

どういうときにドーパミンが放出されやすいのか?

前出の筒井教授によれば、A10ドーパミン神経系が活性化し、脳内の報酬系にドーパミンが放出されやすくなるのは、次の3つの場合です。

1.

不確実な嬉しい出来事を期待しているとき

宝くじ買ってワクワクしている例えば、宝くじを買って、当たるかどうかはわからないけれど、当たった場合のことを考えてワクワクしているようなときにドーパミンが放出されます。


2.

予期していなかった嬉しい出来事が起きたとき

万馬券に喜ぶ例えば、宝くじが当たったときです。

万馬券を取ったときもそうです。

まさか当たると思っていなかった、とにかく全然予期していなかったものが当たったりしたときに、ドーパミンが放出されます。


3.

嬉しい出来事が確実に起きると予想されたとき

3か月後の旅行を空想する例えば、会社を退職して、3カ月後に念願の海外旅行に行くと決めて、すでにチケットも予約してあり、その日が来るのを待っているときです。

「もういくつ寝るとお正月」型ともいえます。

別の例では、毎月の給料日やボーナスの支給日、年金支給日が近づいて待っているときです。

日常生活において脳内のドーパミンを増やすには?

目標設定前述の3つを応用すると、日常生活において「やる気」の素になるドーパミンの放出を意図的に促すことができます。

1の「不確実な嬉しい出来事を期待する」の応用は、「目標設定型」の生活です。

実現するかどうかはわからないが、実現したら嬉しいという目標を設定した生活。

つまり、明日、1週間後、1カ月後、1年後が楽しみになるような生活です。

この事例として私が講演でよく話すのが、100歳を超えても精力的に活動を続けた故日野原重明先生が生前にやっていたことです。

Episode

日野原先生は2017年に105歳で亡くなられましたが、100歳を超えても講演や執筆などを精力的に続けられました。

その日野原先生は、手帳に常に数年先の予定を具体的に書き込んでいたそうです。数年後の何月何日の何時から、どこで、誰の前で何をするかを書くのです。

数年先に生きているかどうかわからないけれど、実現したら嬉しいことです。こういう習慣を続けてきたことで、日野原先生は100歳を超えても、いきいきしていたのでしょう。

日野原重明先生(1911〜2017)

別の事例は、登山家の三浦雄一郎さんです。

私は2008年に三浦さんが75歳でエベレストに登った1カ月後に、直接お会いして話を聞く機会がありました。

「三浦さん、次の目標は何ですか?」
と尋ねると、三浦さんは
「80歳でチョモランマに登ることです」
と答えました。

この言葉には二つのミソがあります。

一つは、5年後の80歳で再び登ると具体的に決めていることです。

人は目標があると努力します。

三浦さんは大変な努力家で、筋力を上げるために外出するときは両足に錘をつけて、急な坂道もそれをつけて歩いていました。

上り坂よりも下り坂のほうが筋力が必要だと言って、錘をつけて下り坂を降りる習慣を日常的に行っていました。

もう一つのミソは、エベレストではなくチョモランマと言っていることです。

実は、エベレストとチョモランマは同じ山のことで、チョモランマはチベット語の呼び名です。

つまり、次はルートを変えてチベット側から登るということです。

すると、前回とは違った準備が必要になります。

どこをどうやって登るかを工夫するだけではなく、そのためにはどういう筋肉のつけ方が必要かについても、大学の先生からアドバイスをもらっていました。

実は三浦さんはその翌年にスキー場で骨盤を骨折する大けがをして、登山はもう無理だろうと言われました。

それでも手術の後に懸命にリハビリに励み、80歳で見事にエベレストに登頂しました。

その後、三浦さんは2020年に難病を発症し、一時は寝たきりに近い状態になったといいます。

しかし、リハビリを重ね、2023年には90歳で富士山の山頂に到達しました。

このように、年齢を重ねても具体的な目標を持ち続けることは、心身の力を引き出す大きな原動力になります。

このような「目標設定型」の生活だと、脳内の報酬系が活性化しやすくなります。

成果を生む目標設定にはコツがある

ただし、設定する目標は高すぎても低すぎてもいけません。

例えば、普通の人が1年後に総理大臣になるとか、年収100億円を目指すとかいっても、現実味がありません。

逆に、30分後にコーヒーを2杯飲むといった、あまりにも簡単に達成できる目標も意味がありません。

これは第1部で述べた筋トレや脳トレにも共通していますが、自分の今の能力よりやや高い水準に目標設定すると、達成のための行動が継続しやすく、達成すれば喜びは大きくなります。

もう一つ、目標設定は「具体的」にすることが重要です。

「近い将来にどこか美しいところに行く」という漠然としたものはダメです。

例えば、
「来年の2月10日にウィーンの楽友協会大ホールでウィーンフィルのコンサートを聴く」
のように、具体的ではっきりした目標にすることが肝心です。

具体的な日時で嬉しい近未来の予定を組む

次に、2の「予期していなかった嬉しい出来事が起きる」の応用は、「予期しない嬉しいことを与え合える人間関係」を作ることです。

例えば、普段褒められたこともない人から褒められると、
「えっ?」
と思わず嬉しくなります。

だからといって、今日、家に帰っていきなり奥さんに
「今日はきれいだね」
とか言ったら、
「あんた、頭大丈夫?」
と言われるでしょう。

でも、奥さんは少なくとも悪い気はしないはずです。

ただ、毎日のように「今日はきれいだね」と言っていたら、意味がありません。

形式的だったり、馴れ合いにしたりしてはいけません。

普段とは違う意外性が重要です。

挨拶もそうです。

例えば、ファストフード店やファミリーレストランに行って挨拶されても、たいていはマニュアルどおりにやっているだけなので、あまり嬉しくありません。

逆に、挨拶に気持ちがこもっていたり、意外な言葉をかけられたりしたら、嬉しくなります。

例えば、久しぶりに飲食店に行ったら、店の女性から
「今日は来るんじゃないか、と毎日思っていました」
などと言われたら、ウソでも嬉しいものです。

さらには、いわゆるサプライズもあげられます。

誕生日に贈り物をもらうのはもちろん嬉しいですが、それよりも、誕生日でもないのにいきなり贈り物をもらったら、もっと嬉しい。

「えっ、今日はなんの日だっけ?」
のような、本当の意味のサプライズです。

ただし、これもあまり乱発するとサプライズにならなくなるので、注意してください。

最後の3の「嬉しい出来事が確実に起きると予想」の応用は、嬉しいイベントの予約を入れることです。

例えば、何月何日に好きなアーティストのコンサートに行くためのチケットを買うなどです。

ちなみに、50歳を過ぎると学生時代の同窓会の機会が増えます。

何度もやっていると飽きますが、時々やるのであれば、かつて同級生だった彼女は今どうなっているだろう、など楽しみが多くなります。

重要なのは、具体的な日時で近未来の楽しく嬉しいイベントの予定を組むことです。

それが待ち遠しいほど、脳内でドーパミンが放出されやすくなります。

余談ですが、お酒を飲むと、ドーパミンの放出を抑制する神経伝達物質のGABAなどの作用が抑え込まれ、結果としてドーパミン濃度が高くなります。

アルコール摂取を続けて、過剰なドーパミン放出を繰り返してしまうと、いわゆる依存を引き起こしてしまうことがあります。

飲みすぎにはくれぐれもご用心です。

報酬系活性化サイクルを生活に組み込む

前述の3つの応用を体系的に行うと、「報酬系活性化サイクル」ができます。

その要領は次のとおりです。

  1. まず、実現したら嬉しい目標を設定します。すると、ワクワク感が出てドーパミンが放出されます。
  2. すると、やる気が出てモチベーションが上がり、「頑張ろう」という気持ちになります。
  3. 頑張って目標を達成すると、達成感で嬉しくなり、ドーパミンが放出されます。
  4. すると、さらにワクワク感を求めたくなり、もっと高い目標を設定するようになります。

例えば、3カ月後に体重を5キロ減らすという目標を設定します。

これはあまり高い目標ではないですが、毎日運動をやったり、食事の工夫をしたりして体重が減っていくと、嬉しくなってさらにやる気が出てきます。

参考までに、体重は毎日運動をやってもしばらくはあまり落ちません。

それでも諦めないで続けていくと、ある日いきなりストンと落ちます。

しばらくその体重が続いて、またストンと落ちる。

このように階段状に落ちていきます。

なので、体重がしばらく落ちなくても諦めずに運動を続けることが重要です。

そのためには、別のモチベーションづくりの工夫が必要になります。

ドーパミンを増やす栄養素とは?

フェニルアラニン食事でも、ドーパミンの材料になる栄養素を摂ることができます。

ドーパミンは、必須アミノ酸の「フェニルアラニン」が体内で非必須アミノ酸の「チロシン」に変換され、さらにレボドパを経て生合成されます。

必須アミノ酸は体内では作られないため、食べ物で摂る必要があります。

フェニルアラニンを多く含む食べ物には、小麦たんぱく、大豆製品、あずき、ゼラチン、チーズ、ピーナッツなどがあります。

チロシンも食べ物から摂ることができます。

大豆製品、豆類、魚介類、魚卵、肉類、チーズなどに多く含まれます。

一方、ドーパミンを体内で生合成させるには、これだけでは不十分で、ビタミンB6などの栄養素も関わっています。

ビタミンB6は、アミノ酸代謝に関係するビタミンで、ドーパミンなどの神経伝達物質の合成にも関わります。

ビタミンB6は、ニンニク、バジル、パセリ、マグロ、鶏肉などに多く含まれます。

ただし、フェニルアラニンやチロシンを含む食品をたくさん食べ、ビタミンB6も一緒に摂ったからといって、ドーパミンが無制限に作られるわけではありません。

フェニルアラニンやチロシンを普段の2倍摂っても、ドーパミンが2倍出るわけではなく、あくまでも正常なドーパミン生成を支えるものです。

したがって、フェニルアラニンやチロシンが不足している人は意識して摂ったほうがよいですが、普段から必要な量を摂れている人は、特別に大量に摂る必要はありません。

大切なのは、特定の栄養素だけを過剰に摂ることではなく、タンパク質を含むバランスのよい食事を続けることです。

達成すると嬉しい目標が、生きる意欲を生む

人生100年時代を元気に生きるうえで大切なのは、ただ長生きすることではありません。

明日が楽しみになること。

来週が待ち遠しくなること。

来年の自分に期待できること。

こうした感覚があると、人は自然に前向きになります。

「旅行に行くために歩ける体をつくろう」
「孫と遊ぶために体力をつけよう」
「同窓会で元気な姿を見せたい」
「3カ月後に体重を5キロ落としたい」
「来年、もう一度あの場所へ行きたい」

こうした具体的で、達成すると嬉しい目標があると、毎日の行動に意味が生まれます。

そして、その目標に向かう過程で、脳の報酬系が働き、やる気が生まれます。

大切なのは、目標を大きくしすぎないことです。

今の自分より少しだけ上。

頑張れば届きそうだけれど、簡単すぎない。

そのくらいの目標が、一番続けやすく、達成したときの喜びも大きくなります。

身体の健康を保つには運動が必要です。

脳の健康を保つには脳を使うことが必要です。

そして、心の元気を保つには、達成すると嬉しい目標が必要です。

まずは、1週間後、1カ月後、3カ月後に「できたら嬉しいこと」を一つ決めてみてください。

それが、中高年からの意欲と生きがいを高める第一歩になります。

スマート・エイジングについてより深く知りたい方は、村田裕之の講演会をご覧ください。講演会では、さらに興味深い動画やグラフをお見せして、
秘訣を実践を交えてわかりやすくお話ししています。