知縁

定年後の過し方 新しい「縁」でいきいき
 
  日本経済新聞 2002年3月30日
村田裕之
 

第二の人生を過ごす上で重要なのが
人的ネットワークだ。

一般的に現役時代の人脈は会社の縁、
いわゆる社縁が中心で、住んでいる地域の
つながりである地縁は少ない。

逆に女性、特に主婦の場合、
学校や地域での活動を通じて
地縁を持っている。

サラリーマンが退職すると
社縁の大半が無くなる。
かといってすぐに
地縁をつくれるものでもない。

注目したいのが二つの新しい縁。
ひとつは共通の興味をもつ者たちが
知的好奇心で結びつく知縁、
もうひとつは共通の目的をもつ者同士が
助け合う助縁だ。

特に知縁への関心は高い。
ソフィアバンクが昨年11月、
40-59歳のサラリーマン350人に聞いた意識調査では、
六割強の人が定年後、「趣味を楽しみたい」と答えている。

これまでも趣味のサークルなどはあったが、
インターネットの普及で自分がほしい情報を
簡単に入手できるようになり、
同好の士が結びつきやすくなった。

代表例が全国各地に誕生している
市民団体の「ロングステイクラブ」だ。
1997年に神奈川県藤沢市と周辺地域に住む
50代以上の男性を中心に結成した
「ロングステイ湘南」が草分け。
長期間、海外に滞在するロングステイを
してみたいと思う人の集まりだ。

ロングステイ湘南はネットで活動内容などを発信し、
それを見て興味を持った人たちが
自分たちの地域でも同じようなクラブをつくり、
札幌や名古屋など全国に飛び火した。

もちろんネットだけでなく、
実際の活動を通じても知縁の輪は広がっている。
例えば湘南が昨年、地元のスーパーで
会員の海外生活体験の写真展を開いたところ、
4日間で1700人が来場、生活風景に共感した660人から
クラブの参加申し込みがあった。
これを機に横浜や鎌倉、茅ケ崎、平塚などで
続々とクラブが誕生した。

ほかの例では、パソコンに興味のある中高年が集う
シニアネットもある。
高齢者にパソコンネットの利用を促す
米国の非営利組織(NPO)をモデルに、
日本でも各地で相次いで生まれた。
シニアネット仙台では、
シニア向けのパソコン教室を開いたり、商店街の活性化策を話し合ったりしている。
同様の動きは全国40カ所以上で起きている。

一方、助縁の代表例は個人の独立・起業を支援する日本SOHOセンター。
パソコン通信のフォーラムでの交流から、
問題意識を持った有志が、98年10月に結成したNPOだ。

最近の調査によれば、50代サラリーマンの七割が
独立・起業を考えたことがあるという。
しかし、いざ独立するとなるとサラリーマン時代と異なり、
経理や財務、法務などの専門知識が必要になる。
センターでは、同じ立場にある者同士が、
ネットのフォーラムを通じて助言し合える場を提供している。

助縁の例としては、ほかに遠距離介護という
共通の目的をもつ者同士が集まって情報交換する会もある。
「パオッコ」(東京)がその代表格。
遠く離れた高齢の両親の面倒を見るのは、
多くの現役サラリーマンが抱える共通の関心事だ。

従来の社縁、地縁が
自分の所属する「場」によって生まれるのに対して、
知縁や助縁は自分と他の人との
共感によって生まれる縁ということを示している。

陰で支えるのがインターネットなどの個人メディアだ。
発信した個人情報が見知らぬ人との共感を生むきっかけになる。

先に挙げた遠距離介護でも、
親の介護に直面した人が助けを求めて
最初に援触する手段は、ネットが多いという。
ネットなら住んでいる場所に関係なく、
共通の興味や目的を持つ者同士が結びつきやすい。

重要なことは、自分がどんな縁を求めているのかを
明確にすることだ。
退職後、自分がやりたいことは何か、
自分は何を求めているのかを
現役時代によく整理しておいた方がいい。
これがはっきりしないと、
せっかくホームページをつくって仲間を集めても、
名刺を交換するだけの異業種交流会のようになってしまう。

ネットなどを活用した知縁、助縁づくりは、
退職者はもちろん、現役サラリーマンにとっても
人生を見つめ直す機会になるだろう。

 

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