1月9日から13日までシンガポールに出張した。 シンガポール政府の委員会主催で初めて開催された
SICEX(Silver Industry Conference & Exhibition)での 講演と打合せのためである。
前号で高齢社会への対応の面で
「日本は21世紀の世界のモデルになる」と書いた。 私にとって初めてのシンガポール訪問は、 まさにこのことを強く体感したものとなった。
まず、シンガポールでの開催にも関わらず、
タイ、マレーシア、インドネシアなど周辺国からも
多くの参加者が集まっていた。
また、メディアの関心が非常に高く、
リー・クアン・ユー元首相・顧問相が参加したこともあり、
連日のように報道していた。
私もブルームバーグTVへの生出演をはじめ、
3つのテレビ局、5つの新聞社・出版社から
個別インタビューを受けた。
2日目の基調講演だった私のスピーチに対しては
聴衆の反応がものすごかった。
こちらの話す一言ひとことに対して
逐一敏感に反応があり、熱気がみなぎる雰囲気だった。
参加者は日本円で4〜6万円の参加料を支払っている。
これだけの参加料を払ってまで来る人は
単なる冷やかしではなく、相当意識が高い人である。
そのことが聴衆の真剣な雰囲気を醸成しているのは明らかだった。
こうした雰囲気は講演者をも真剣勝負に引きずり込む。
翌日の新聞にリー・クアン・ユー顧問相の記事の隣に
顔写真入りで講演内容が紹介されたのには驚いた。
今回の滞在を通じて痛感したのは、
シンガポールという国の可能性である。
高齢化率世界一の日本と比べ、
シンガポールの高齢化率は8%。
ようやく「高齢化国家」の仲間入りをしたところで、
シルバー産業などまだ遠い先のように見える。
今回の展示会出展者も街を歩いている人たちも
何となく若い人が目立つ。
しかし、少し見ると日本の都市部との共通点は多い。
淡路島程度の国土面積に440万人が住み、
国の至る所に高層アパートが立ち並ぶ都市型国家である。
資源も乏しいのに一人当たりのGDPは日本並み。
生活水準の高い先進国である。
女性の社会進出が進んでおり、出生率は日本同様1.0程度で
少子化による問題が顕在化している。
一方、日本にない独自性も多い。
地政学的な要所であり、交通の便がよい。
シンガポール港もチャンギ空港も
世界の交通のハブとなっている。
もともと大英連邦の一員なので共通言語は英語であり、
中国語訛の強い「シングリッシュ」だが、よどみなく話す。
そして、積極的な外資誘導策により、
多くの多国籍企業が拠点を置いている。
これらの背景から、シンガポールは
世界中から情報が集積する
「情報の交差点」となっている。
こうした側面を眺めると、シンガポールでは
「都市型高齢社会向けサービス産業」が発展していく
という将来像が見えてくる。
その萌芽はすでにある。
「メディカル・ツーリズム」がその一つだ。
メディカル・ツーリズムとは、簡単に言えば、
治療や手術を受けるために他国に旅行することをいう。
アメリカではメディカル・ツーリズム市場が毎年30%成長しており、
2010年までに400億ドル市場になると言われている。
メディカル・ツーリズムでのアメリカ人の行き先は
インド、タイ、ドバイが多い。
一方、シンガポールの場合、中国大陸からの来客が多い。
毎年30万人を超える中国人がメディカル・ツーリズムで
シンガポールを訪れている。
彼らの多くは年配の中国人だ。
英語が第一言語のシンガポールも中国系住民が7割であり、
かなり多くの人が中国語も話す。
メディカル・ツーリズムは、医療と観光という
高い技術力とホスピタリティとを組み合わせた
複合サービス産業である。
金融、観光、IT、バイオなどのサービス産業が得意な
シンガポールにはお手の物と言えよう。
シンガポールを高齢化率8%の
若い小国と思っていたら見誤るだろう。
明るく熱心で謙虚な若い世代が、
何十年も先の国の将来を見据えて
本格的な取り組みを始めている姿は、
同じアジアの一国として他人事のように思えない。
私にとって初めてのシンガポール訪問は、
明日の日本と世界を考えるのに
多くの示唆と刺激に満ちたものとなった。
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●参考情報
SICEXでの村田講演概要
2008年1月12日号 THE STRAITS TIMES
(シンガポール最大の英字日刊紙)
SICEX2008について
リタイア・モラトリアム−すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか
(日本経済新聞出版社)
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