「団塊向け弁当」のその後

 
 
2007年11月19日 Vol. 111
村田裕之
 

少し前に、あるコンビニエンスストアが
「団塊向け弁当」というのを発売した。

この弁当は、ご飯の量を若者向けの六割程度に少なめにし、
おかずには揚げ物を入れずに、切り干し大根や野菜の煮物などを
小分けにして栄養バランスやカロリーに配慮したものだ。
値段は690円で、通常の弁当よりもやや高めの設定となっている。

もし、この商品の売れ行きが今ひとつだとすれば、
まずチェックしないといけないのは、
「団塊世代・シニア向け」と謳った商品が
売れない「商品開発の壁」である。

この壁の中身は、たいてい次の三つである。

@商品の質がターゲット顧客の求める水準に達していない
A内容がてんこ盛りで、他との差別性がぼやけてしまう 
B「中高年層はこう」と決め付けた商品になってしまう

この弁当は団塊世代8人でチームをつくり、
開発した商品とのことなので、@の壁はクリアしていると判断される。
また、Bの壁は往々にして若年層が商品開発をする場合に
起こりやすい壁だが、これもクリアしているといえる。

問題はAの壁だ。
こうした内容で値段が690円となると、
コンビニ以外のスーパーやデパートなどとの競合が増えてくる。

さらに、せっかくよい商品をつくっても思うように売れない
「商品営業の壁」の存在もチェックする必要がある。
この壁の中身は、たいてい次の三つである。

@顧客が利用しないメディアに商品情報を告知してしまう
A顧客が気づきにくい流通チャネルに商品を流してしまう
B顧客の琴線に触れない商品イメージを告知してしまう

@の壁は、テレビコマーシャルの打ち方で発生する。
この商品を告知するならば、昼間ではなく、
夜のゴールデンタイム以降でないといけない。
なぜなら、ビジネスマンの多くは昼間にテレビを見ないためだ。
こうした当たり前のことが意外に確認されないことがある。

一方、Aの壁は、コンビニという小型高効率店舗の特徴から生まれやすい。
コンビニの棚は売れ筋優先で陳列されやすいので、
販売初期段階で売れ筋にならないと、通常のカロリー過多の弁当の脇の
目立たない位置に陳列される可能性がある。

これを避けるには、敢えて弁当コーナーに陳列せず、
「カロリーが少なめで美味しい」という訴求をして、
似たような商品ととともに
「ヘルシーコーナー」として並べるやり方があるかもしれない。

Bの壁は、ずばり「団塊向け弁当」などのネーミングをすることで発生する。
特定の年齢層を商品名にする場合は、かなりの注意が必要だ。

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実は、上記の話は拙著「リタイア・モラトリアム」で述べたものだ。
執筆時点(6月末)では、この「団塊向け弁当」は発売されたばかりで、
売れるかどうかはわからなかった。

4ヵ月半経過後の現在、当該コンビニの店舗には
もはやこの商品は見られない。
どうやら、あまり売れなかったらしい。

売れなかった最大の原因は、前掲の「商品営業の壁」の
「A顧客が気づきにくい流通チャネルに商品を流してしまう」だ。

これは通常のコンビニという流通チャネルで
弁当を購入する顧客層が20代から30代であり、
そもそも団塊世代が少ないことによる。

ちなみに、現在このコンビニでは「メガ弁当」という、
量もカロリーも多く、値段を抑えた弁当がヒットしているという。
「団塊向け弁当」と逆のコンセプトの商品である。

しかし、この結果をもって「団塊向け弁当」の需要がない、
と結論づけるのは早合点だ。
現にデパ地下など年配顧客が多いところでは、
「団塊向け弁当」のような商品コンセプトのものは多く、
比較的よく売れているからだ。

通常のコンビニでこうした商品を売ろうとすると
流通チャネルとのミスマッチが起きるということに過ぎない。

この「団塊向け弁当」は、ほんの一例に過ぎない。
多様性市場である団塊世代市場では、
このような多くの側面からの細かい検討の積み重ねが必要なのである。

これらの話は、本書以外でも語られているだろう。
しかし、重要なのは、そうした内容を本で読んで知識として持つだけでなく、
具体的な行動にして、トコトン「やり切れる」かどうかなのである。

ところが、これが言うは易く、行うは難しなのである。
それができない、そうするのが面倒臭いので、
多くの企業は高度成長期と同じような
「マス売り」に走りたがるのである。

 

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●参考情報

リタイア・モラトリアム−すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか
(日本経済新聞出版社)

団塊・シニアビジネス 7つの発想転換
(ダイヤモンド社)

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