『シルバー産業新聞』
      半歩先の団塊シニアビジネス

 

便利の不便さ、不便の便利さ

 
 

2009年6月10日号 第28回

村田裕之
 

私は昔、食堂車に乗るのが大好きだった。走っている鉄道の食堂車でご飯を食べるというのが、この上ない贅沢だった。だが、残念ながらこうした食堂車は夜行の寝台列車以外にはJRから排除されてしまった。

JRから食堂車が排除されたのは、衛生管理が面倒な割に利用者が少なく、経済的でないからだ。客の回転の悪い食堂車で手間隙かけるより、個々の座席に弁当を販売した方が経済的に有利なのだろう。 かくして日本では、JRが新幹線の普及とともに欧州式のゴージャスな車両を在来線からほぼ消滅させて以来、欧州型の鉄道の旅のスタイルはなくなってしまった。

ところが、面白いことにいくつかの私鉄は、JRが消滅させたゴージャスな車両を今も走らせている。小田急電鉄の「ロマンスカー」、東武鉄道の「スペーシア」、伊豆急行の「リゾート21」がその例だ。

(中略)

以上のとおり、ゴージャス車両によるゆったりとした旅は、不思議なことにJRよりも私鉄の方が力を入れている。なぜ、欧州の鉄道や私鉄にできていることがJRにはできないのだろうか。 これは技術の問題ではなく、経営者の価値観の違いとしか思えない。経済性優先の新幹線中心の経営では、ゆったりとした鉄道本来の旅の楽しさを提供するという発想にはなりにくい。旧国鉄時代の「乗せてやる」的な供給側の論理がまだ根強く残っているのではないか。

スローフード、スローライフなど近年台頭しているライフスタイルは、経済効率優先主義の利益追求型サービスに対する反動であることは明らかだ。 仕事モードの時は便利な新幹線も、娯楽モードの時には便利とは限らない。今後少しずつ退職者が増えていけば、こうしたゆったりとした旅を求める人たちが「サイレント・マジョリティ」から「マジョリティ」に変わっていく。鉄道会社は、こうした変化に対応しなければ、客からそっぽを向かれるだろう。

 

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