村田裕之関連  
特別寄稿:「ごく微量の放射能」の拡散より「風評」の拡散を防げ
 
  シルバー産業新聞 2011年4月10日号
 
 
 

3月11日に起きた東北関東大震災直後、海外メディアは総じて好意的・支援的であった。マグニチュード9という地震規模の巨大さと海岸地域を襲った津波被害の甚大さにもかかわらず、不平不満を言わず、秩序を保ち、団結して冷静さを失わない日本人に対して賞賛する報道が目立った。

だが、福島原発で一号機と三号機に水素爆発が起きた以降、海外メディアの注目は原発トラブルに移った。ニューヨークタイムズなど欧米の新聞では一般住民に対する放射線被ばく量の検査風景が連日一面トップになっていた。こうした風景は、つい最近まで(本稿執筆日3月25日)日本のメディアがほとんど報道しなかったものである。

その後原発トラブルが一向に収束する様子がなく、放射性物質拡散の懸念が強まったことで、海外メディアの報道姿勢が、当初の「日本人に対する称賛」から「日本政府・東京電力」の情報開示姿勢に対する不満・苛立ちに変わった。

そして、政府による野菜・原乳の摂取制限・出荷制限の発令後は、海外メディアは自国における「日本製品の禁輸・不買」の動きを“加速する”役割を担っている。

米国は福島など四つの県産全ての原乳や乳製品、野菜、果物類の輸入停止を決定、韓国や香港も同じ動きを見せている。中国は日本製食品に対する全国規模の放射線検査を指示し、台湾では加工食品や家電など機械製品まで検査対象にした。 また、フィリピンでは小売店などから日本産食品が姿を消した。インドネシア政府は23日予防措置として日本の魚の一時輸入停止を明らかにした。ミャンマーでは日本からの旅客のみ別室で放射線検査などをしている。

これら一連の動きで注意すべきは、日本では規制の対象外である「家電など機械製品」や「旅客」までも検査対象になり、規制対象でない日本産食品が小売店から姿を消すなどの現象が起きていることだ。

シンガポール政府は、24日夜、日本から輸入した三つ葉とシソから放射性ヨウ素、菜の花とミズナから放射性セシウム134と137を検出したと発表した。シンガポール政府は「健康に影響はない」としていながら、これらの野菜を処分することにしたという。

こうした各国政府の動きは、日本で検出されている放射性物質の数値レベルから見れば、明らかに過剰反応である。シンガポールでは「日本食は食べない方がいい」などという風評が公然と出回っていることを筆者は確認している。

こうした各国政府の過剰反応が、各国市民の日本製品に対する風評を拡大し、「安心・高品質」の日本ブランドに傷がつき始めている。この事実を日本政府は果たしてどの程度認識しているのだろうか。  

現在関東地方は、電力供給力不足のため、不便極まりない計画停電を余儀なくされ、消費マインドが削がれているだけでなく、企業の生産活動に大きな足かせになっている。しばらく続くであろうこの状態で震災地域を復興させていくには、萎み気味の国内市場ではなく、海外市場に活路を見出すことが不可欠のはずだ。 だが、こうした風評の拡大により、日本ブランドが傷つけば、単に東北・関東地方のみならず、日本経済全体への大きな損失となる。  

戦後最大の国難の時期に、こうした損失をつくらないために、私は次の二つを政府に実行していただきたい。 第一に「出荷規制・摂取規制」は極力やらないよう工夫して欲しい。政府による「出荷規制・摂取規制」という行為そのものが風評増幅装置になるからだ。

現状政府が行っている出荷規制・摂取規制は、原発事故が起きた直後の17日に、原子力委員会の数値を転用して定められた、いわば“突貫工事”の暫定基準値に基づくものである。この基準値の妥当性を十分吟味しないまま、単に数値が超えたから規制すると言うのは、あまりに拙速だ。「農産物に含まれる放射性物質は健康に影響を及ぼすものではない」と言うのであれば、そもそも規制などすべきでない。規制をすることが政治的判断なら、敢えて規制をしないという政治的判断があってもよいのではないか。

第二に、各国大使館や海外メディアに対しては、英語での説明資料をきちんと用意し、実際に毎日計測されている放射線数値などの事実に基づく丁寧な説明をしてほしい。

特に世界一原発を保有している米国、チェルノブイリ事故で苦い経験のある欧州は放射性物質の動向にかなり敏感だ。また、原発もなく、放射性物質など普段関知したことのないアジア各国には、放射性物質の拡散は得体の知れない脅威に見える。こうした海外諸国の懸念を払しょくするには、事実に基づくわかりやすい誠実な説明が必要だ。

いま日本にとって必要なのは、人体にさほど影響のない「ごく微量の放射能」の拡散で騒ぐことではなく、「風評被害」の世界的拡散を防ぐことである。

 

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